Hotel Utsjoki

ウツヨキでは、ウツヨキとイナリなど南の方の町を結ぶ道路が開通した翌年の1959年に建てられたというHotel Utsjokiに滞在した。開業当時からあまり変わっていないのではと思うほど懐かしい雰囲気のホテルで、予約時点では少しだけ不安も抱いていたけれど、スタッフはみな明るく親切で、客室はシンプルながらも必要なものは揃っていたし、小さなラウンジにはコーヒーメーカーやポットや電子レンジもあって、思っていた以上に快適に過ごすことができた。

ホテルの廊下には、サーミの太鼓(シャーマン・ドラム)に刻まれるさまざまなシンボルが描かれた絵が飾られていた。また、部屋の各ドアにもそれぞれ異なるシンボルが描かれた小さな絵が掲げられていた。私が滞在した部屋のシンボルは舟だった。

このホテルは、村の数少ないレストランも兼ねていて、ウツヨキ川を眺めながら食べた食事はどれも美味しかった。また、夏至の前夜には、地下にあるバーでイベントが開催され、地元の人たちがたくさん集まっていた。夏至の日(祝日)と、その翌日の日曜日は、ホテルも休業日でスタッフはいなかったけれど、朝食はちゃんと事前に用意されていたし、何かあればいつでも連絡がとれる電話番号も教えてもらった。

このウツヨキのホテルに比べれば、イナリで泊まったホテルは完全にリゾート仕様だったとわかる。村の規模もずいぶん違って、イナリはもちろん、さらに人口の多いイヴァロなど立派な町だと感じるほどに、ウツヨキはどこもかしこも静かで、質素だった。

そして、ウツヨキではインターネット回線(ローミング)が弱く、ホテルの外ではほぼ繋がらなかった。そのため、一人で自転車に乗ったり山を歩いたりする時には、念のため紙の地図とコンパスを持参した。しかし、おかげでSNSもニュースも殆ど見ることのない数日間を過ごし、それが実に快適であることに気づいた。とても濃密で充実した時間だった。