人は自分に言い聞かせるために繰り返し同じことを語る

人が同じ話を何度も繰り返し語るのは、彼/彼女にとってそれが「そうであってほしい」理想の物語だからなのだろう。彼/彼女は他者に向けて語りながら、実は自分自身に繰り返し言い聞かせ続けている。それはおそらく、彼/彼女が信じている”自分(自我)”を保つための都合であり、「おはなし」なのだ。 わたしの母は生前、何かにつけて「女一人でここまでの財産を残せる自分はすごい」というようなことを言っていた。彼女の中に、そう思いこまなければ保てない自我の都合、つまり「おはなし」があったのだろう。そして、その根底には、彼女が受け入れたくなかった彼女自身の影(事実)があったはずだ。 また、母の内縁の夫はよく「わたしの母親はすばらしかった、わたしは母から本当に愛されていた、マザコンと言われるのは光栄だ」というようなことを語りたがった。こちらから尋ねてもいないのに同じことを何度も語るので、おそらくそれは事実ではなくて、彼自身が信じていたい「おはなし」なのだろうと思うようになった。 わたしのパートナーもまた、ある種の話題になると必ず同じことを語る。それについて、わたしは何も言及はしないが、それを語り、確認するこ…

求めるものではなく、自ずと生じるもの

うったえよう、わからせようとするほど、言葉は粘度が増して力を失う。音楽だってそうだ。自我の思い入れは、響きを阻害する。 言葉でも、音でも、何であっても、理解や共感を求めると重たくなる。理解も、共感も、強いられるものではなく、受け手の中で(または形としてあらわされたものと受け手との間で)自ずと生じるものだ。…