彼/彼女という第三人称

職場のメンバーと言語について話していたら、一人がわたしに「なぜ日本の人は、英語の会話の中でよくhe/himとshe/herを間違えるのか」と尋ねてきた。実際にわたしも、自分では「彼女が」と言ったつもりが「he」と口にしていて、会話の最中に指摘されたことがある。 それで思い出したのは、日本で母を含めて数人で話をしていた時のことだ。母について何かを尋ねられたわたしは、隣にいた母を示しながら「彼女は~」と説明しながら、ふと「日本語の会話ではこういう呼び方はあまりしないかもしれない」と感じた。 「彼/彼女」という日本語の人称代名詞は、書き言葉では目にするけれど、会話の中で使われることは少ない。 さらに同じ同僚から「では、日本語では『彼/彼女』という言葉を使わずにどうやって会話が成立するのか」と尋ねられた。多くの場合、固有名詞(名前)または肩書・役割名が用いられるか、場合によっては指示代名詞が使われている。そして、主語や目的語が完全に省略されることも少なくない。 もしかしたら、そういった母語(日本語)の特徴が、わたしをはじめ日本語話者が英語会話の中でheとsheを無意識に混同してしまう原…

イスラエルで母と落ち合う夢

イスラエルで母と待ち合わせる夢を見た。わたしたちは、居心地のいいカフェのような空間に並んで座り、チェコからイスラエルへ出向いたわたしと、日本から来た母、どちらの飛行距離が長かっただろうと話していた。わたしは、きっとチェコからの方が近いと言った。わたしたちの隣には、修道服を身に着けた女性が静かに座っていた。…

事象はいつでもシンプルだ

12月半ばから待たされていたやりとりが、人の助けを得た(チェコ人ににわたしに代わって担当者へ電話をかけてもらい、チェコ語で事情を話してもらった)ことによってようやく進み、締め切りにぎりぎり間に合った。その担当者は、わたしが何度催促しても返事すらしてこなかったが、代理人がチェコ語で電話をかけたところ即座に動いた。 わたしとしては「あなた、12月の時点で『I will send you as soon as possible』と返信してきてたじゃない」「同じ内容を3度もメールで確認したじゃない」「顔を合わせた際にも『重要で緊急だ』と念押ししたじゃない」等々思うところはあれど、「ここはチェコ、日本のようにはいかないよ」と言われたら納得するしかない。最終的には間に合ってよかった。 チェコに来てから、仕事でもプライベートでもこういう状況は既に何度も経験してきて、すっかり慣れた。しかし、特に金銭が絡んでいる場合には、より速やかに相手を動かすため(さらに言えば相手を逃さないため)の技と知恵を身に着ける必要はある。 初めてチェコに送り込まれた4年前に比べれば、わたしは随分タフになった。語学をはじ…

どこから来て、どこへ行くのか

「自分がどこから来たのかを見つけ、どこへ行くかを定める」のを、この人生の目的にしよう。そう意図すれば、地球上でのあらゆる体験をそのために活用できる。物質的制限のある肉体を持つ存在だからこそ見えることがある。どうせならば、元来た星へ還るのではなく、さらにその先を目指すのがおもしろい。 『星』 山尾三省 星を見て つつしむ 星を浴びて いのちを甦らせる 星を定めて 死の時を待つ 星を見て はなやぐ 星を浴びて 法を浴びる 星を定めて 天にまじわる 星を見て 究極する 星を浴びて 地に還る 星を定めて 星に還る 最近、この詩をよく思い返している。…

オリオンの三ツ星

日本からの帰り道、アムステルダムからプラハへ向かう飛行機の窓から、まるで手が届きそうなぐらいにはっきりとオリオンが見えていた。風邪の兆候が出ていたので途中で眠ってしまったが、それまでずっと窓枠にもたれて、大きな砂時計の形を描く星々を眺めていた。眠りに落ちる間際、プラハへ戻ったら、アルニタク、アルニラム、ミンタカへ行ってみようと決めた。 数ヶ月前、実家の家紋に描かれている三つの丸が、オリオンの三ツ星であることを知った。祖母、母、わたしと、三代続けて同じ干支のほぼ同日(三月三日、祖母だけは四日)に生まれたので、そうだったかと妙に腑に落ちた。 そして、今朝ふと、わたし、母、祖母の三人を、アルニタク、アルニラム、ミンタカになぞらえて眺めることを思いついた。わたしと母はまだ地球上に肉体をもって存在しているため、物質的な条件に限定されるが、三年前に死んで固形存在でなくなった祖母は非局在だ。まずは、夢の中で祖母にコンタクトしてみよう。…

鼻と悲しみ

わたしは風邪をひくといつも後鼻漏の症状が長引く。これは、つい後回しにして抑圧していた悲しみや涙、怒りが、膿という形で現れているのだろう。幼少期はよく耳鼻科に通った。年明けに風邪をひき、しばらく寝込んでいたが、それによって鼻の症状に何が現れるかを思い出した。 肉体を通して現れるものはすべて内なる力の表出/表現だ。…

山奥にある巨大な宗教施設、大音量のクラシック音楽、ファサードに刻まれた古代文字

ソファーで寝落ちしている間に見た夢の話。 自宅という設定の知らない場所の裏に深い山があり、これまで通ったことのないルートで歩いてみることにした。山を奥へと進んでいくうちに、いつの間にかわたしは巨大な邸宅の屋根の上を歩いていた。コンクリート階段の隣にはリゾートホテルにあるような豪華な造りのプールが見える。Ⅼ字型の階段を降りると、そこは邸宅の入口だった。その佇まいは、まるで山奥に隠された巨大要塞のようだ。建物のファサードには古代文字か文様が刻まれていて、入口付近ではクラシック音楽が大音量で流れていた。どうやら誰かが2階で音楽を流しているらしい。 2階のバルコニー部分に女性らしき人影が見えたので、見つからないよう素早く立ち去った。元来たルートへは戻らずに、邸宅の入口から真っ直ぐに延びる舗装された道を歩く。すると、道を挟むようにして広がる邸宅の屋根の上や庭を多くの人々が歩いているのが見えた。そこは、ある種の人々には観光地として知られているようだ。 歩いているうちに住宅地へ出た。なぜかそこは、わたしが生まれ育った日本の町(実際の町並みとは異なっていたが、町名がそうだった)で、「あれ?ここ…

覗き魔との遭遇と捕獲、そこから気づいた棲み分け認識と自覚の重要性

一昨日の夕方のこと。自宅の最寄り駅に隣接するショッピングモール内のトイレで覗き魔に遭遇した。個室で用を足している最中、隣の個室の扉が閉まる音を聞いたが、その後が妙に静かだったので、何だか変だと感じてふと見上げたら、知らない男の顔がこちらを覗いていた。男と目があった瞬間、驚愕と恐怖で全身が凍りつきそうになったが、即座に大声を上げて個室から飛び出した。次の瞬間、「絶対に捕まえてやる!」という猛烈な思いが腹から沸き起こり、猛スピードで手洗いスペースを抜けて、外へ出て助けを求めた(「Pomoc!」というチェコ語を初めて実際に口にした)。 犯人が逃走しないようトイレの入口を注視しながら、フードコートにいたパートナーを大声で呼び寄せ、彼を見張りに立たせて、わたしは警備員を探しに走った。警備員はすぐにやってきた。おそらくわたしの声が聞こえていたのだろう。「女子トイレの中に男がいて、個室の中を覗かれた!」と訴えたところ、彼は即座に中へと入り、すぐまた出てきて「目撃した男に何か特徴はなかったか。」とわたしに尋ねた。わたしは「目から上しか見えなかったが、おでこが広く、ちょっと禿げかかっていた。」と答えた…