「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」
幼友達が、姫路文学館で開催されている特別展「没後10年 作家 車谷長吉展」へ行ってきたと報告してくれた。私は彼女に、もし時間があれば、この特別展の図録を買ってきてほしいと依頼してあったのだ。密度の濃い、素晴らしい展示だったと聞いた。出来ることなら私も行きたいのだが、開催期間中に日本へ行けそうにはないのが残念だ。 展示を見て、車谷長吉の作品にも興味を抱き始めたという彼女に、私が繰り返し読んでいるいくつかの作品を紹介した。そして、随分前に読んで以来ずっと私の中で生き続けている彼の言葉についても話した。 「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」 これは、朝日新聞の連載「悩みのるつぼ」に寄せられたある相談に対し、彼が回答の中で語った言葉だ。私自身、自死は解決をもたらさないことを痛感したのち、自らの醜さや暴力性と自己欺瞞に向き合わざるを得なくなり、やがて母や家族を含む多くの関係を一旦投げ捨て、仕事も肩書きもすべて放棄して、野垂れ死にを覚悟した後、ようやく人生がはじまった。だから、彼のこの言葉は自分事としてよくよくわかる。 この言葉を初めて目にした時、私はまだすべてを放棄すること、即ち、…