鯨の体内で作られる龍の涎の香り
ある知人との間で思いがけず龍涎香の名が話題にのぼった。久しぶりに目にする名称に懐かしさを覚えながら、龍涎香に関する記事を検索していたところ、過去に少しだけ調香を教わったことがある調香師のブログにたどり着いた。初めて彼女のアトリエを訪ねた日のことを思い出す。 龍涎香はマッコウクジラ(抹香鯨)の腸内で形成される結石で、希少価値の高い香水の原材料として知られる。クジラが食べたイカの嘴など消化されない部位が粘性の分泌物で包まれて体外に排出され、その排出物が海中で固化したものだと言われている。先日、タイの海岸で散歩中の人が龍涎香らしき塊を発見したというニュースを目にしたばかりだ。 「龍涎香=龍のよだれ」という名前がいい。鯨の体内で作られる龍の涎だ。英語ではアンバーグリス(ambergris=灰色の琥珀)と呼ばれている。龍涎香は『千夜一夜物語』の中にも登場する。人間の足ではとても登ることができない山の奥地に、龍涎香が天然のまま湧き出す泉があると語られている。 龍涎香のことを思っているうちに良い香りを嗅ぎたくなり、手元にある数少ない天然香料の瓶を久しぶりに開けた。ラブダナム、オークモス、シスト…