Inari

朝早いフライトだったので、イナリに到着したのは11時前だった。予想よりもさらに気温は低く、思っていたとおりどこもかしこも広々としていて静かだ。早速ホテルにチェックインし、サーミ博物館SIIDA内のレストランSarritでのんびりランチを食べた後は、まずイナリ湖の周辺を散策。湖の上は雲が近い。そして、これまで見たことのないような幅の広い大きな虹が現れていた。…

サーミランドに到着

虹の輪(ブロッケン現象)に守られて空を飛び、いよいよサーミランドに到着した。 イヴァロ空港からイナリへ向かうシャトルバスの運転手さんがイヴァロ出身・在住とのことだったので、昨日ヘルシンキ空港のカフェでイヴァロ出身の女性スタッフに会ったことを話すと、「それは〇〇だよ、息子の友達だ」と言われた。そして、イヴァロは人口4000人ほどの町で、住民はお互いの名や顔をよく知っていると話してくれた。 また、この運転手さんはイヴァロでタクシー会社を経営している方だった。おかげで、再来週に必要なイヴァロのホテルから空港までのタクシーを確保することもできた。もらった名刺を見たら、事前に調べて予約しようと思っていたタクシー会社だった。…

幸先のいい旅のはじまり

ヘルシンキ空港に来るといつも立ち寄るカフェで、いつものKorvapuusti。オーダーをとってくれたスタッフの女性にどこから来たのかと尋ねられ、今日プラハからヘルシンキに到着し、明朝イヴァロへ向かうと答えると、彼女はイヴァロ出身で、とてもいい季節だと話してくれた。幸先のいい始まり。…

出会いがもたらす未知なる扉

ウツヨキ滞在中にトレッキングのガイドをお願いしている方がとても親切で、他にも、現地の歴史や生活を学べるツアーを提案してくださったり、私の身長にあう自転車を見つけてきてくださったり(しかも他よりずっと安価で)と、既にいろいろお世話になっている。彼の地を訪れるのが楽しみなのは勿論のこと、彼女にお会いすることも楽しみになってきた。 自分一人で地図を見て歩いて回ることもできるけれど、ツンドラの荒野が広がるあの地で、徒歩で見たり知ったりできることなどごく僅かだろう。やはり現地の、それもご家族が代々サーミのトナカイ飼いだという方にガイドを依頼して正解だったと感じる。現地の歴史や生活について話を聞くことができるだけでなく、自力では到底見つけられなかっただろう登山道を案内してもらえることになった。 ウツヨキは、住民の約半数がサーミ語を母語とし(公用語もフィンランド語と北サーミ語)、サーミ人が多数を占めるフィンランドで唯一の自治体というだけあって、提案してもらった山(実際には"mountain"ではなく"fell"と呼ばれる)の名称はどれもサーミ語で、Googleマップでは見つけることができなかった…

コッコちゃん、サーミランドヘ

私は来週末からフィンランドの北の端、北極圏に広がるサーミランド(一般的にはラップランドと呼ばれる地域だが、私は「サーミ族の地」と呼びたい)へ行く予定だ。夏を迎えるツンドラの荒野、一晩中太陽が沈まない白夜の空、人間の数よりも遥かに多く存在するトナカイたちとの遭遇、そして「太陽と風の民」と呼ばれるサーミの歴史と文化・・・何もかもが楽しみだ。 サーミランドの最北に位置するウツヨキ(Utsjoki、北サーミ語ではOhcejohka)滞在中には、Paistunturi原生地域の標識のない登山道を歩くガイド付トレッキングツアーに申し込もうと考えている。ツアーを催行する方がサーミのトナカイ飼いであることは認識していたが、彼らの元にいる何百頭ものトナカイたちの中に、2024年のキング・トナカイであるKultalaもいることを初めて知った。以前、サーミランドで毎年開催されるトナカイレースについて知った時、その名前の響きに惹かれてKultala(黄金郷という意味)のファンになった私は、今年のレースでも彼を応援していた。最終的に今年彼は2位に終わってしまったのだけれど。 トレッキングツアー催行者とのやり…

「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」

幼友達が、姫路文学館で開催されている特別展「没後10年 作家 車谷長吉展」へ行ってきたと報告してくれた。私は彼女に、もし時間があれば、この特別展の図録を買ってきてほしいと依頼してあったのだ。密度の濃い、素晴らしい展示だったと聞いた。出来ることなら私も行きたいのだが、開催期間中に日本へ行けそうにはないのが残念だ。 展示を見て、車谷長吉の作品にも興味を抱き始めたという彼女に、私が繰り返し読んでいるいくつかの作品を紹介した。そして、随分前に読んで以来ずっと私の中で生き続けている彼の言葉についても話した。 「生が破綻した時に、はじめて人生が始まる」 これは、朝日新聞の連載「悩みのるつぼ」に寄せられたある相談に対し、彼が回答の中で語った言葉だ。私自身、自死は解決をもたらさないことを痛感したのち、自らの醜さや暴力性と自己欺瞞に向き合わざるを得なくなり、やがて母や家族を含む多くの関係を一旦投げ捨て、仕事も肩書きもすべて放棄して、野垂れ死にを覚悟した後、ようやく人生がはじまった。だから、彼のこの言葉は自分事としてよくよくわかる。 この言葉を初めて目にした時、私はまだすべてを放棄すること、即ち、…

Bicycle ride

夢でまた自転車に乗っていた。夢の中では足で自転車を漕いでいる感覚はなく、実際の自転車よりもずっと速くなめらかに進む。わたしはまず駅のようなところにいた。複数の路線が交差するような大きな駅だった。知らない女性が笑顔で近づいてきて「牛乳は要りませんか」と言われたが、要らないと断った。 わたしは電車に乗るつもりだったが、自分が自転車を運んでいることに気づき、乗車はあきらめて自転車で向かうことにした。といってもどこへ向かっていたのかはわからない。そこはまったく知らない場所だったけれど、夢の中のわたしはその場所を知っているようだった。 高い塀に囲まれた大きな古い屋敷が建ち並ぶ路地を自転車で走った。周囲は雨が降っていたが、わたしは濡れることはなかった。どの屋敷にも、古代の植物のような巨大な果樹があり、塀から高く伸びた桃色の太い幹や枝にたくさんの大きな桃色の実がなっているのが見えた。 やがて大きな川にたどり着いた。そのまま川沿いに進もうかと思ったが、大きな石がごろごろしているその道は走りにくそうだったので、来た道を少し戻って別のルートを進んだ。緩やかなカーブを進むと、青く澄んだ水が流れる浅瀬が…