何を描くかより、何を描かないかが重要だ。すべてを描いてしまうと絵は単なる説明に終わり、想像力を掻き立てる力を失ってしまう。絵であれ、音楽であれ、写真であれ、文学であれ、「何を語らないか」が重要であることに変わりはない。調香においてもそれは同じだった。イマジネーションや記憶を呼び起こすには、香りをただ加えて「それそのもの」を再現するのではなく、香りを記号に変換し、むしろ潔く削ぎ落とすことが重要だった。
随分前に「語りすぎてはならない」という言葉が不意に頭に浮かんで、しばらく離れなかったことを思い出した。あれは、絵を描き始めるずっと前、ピンホールカメラにさえ出逢っていなかった頃だ。今になってようやくあの言葉の示唆するところが少し理解できた気がする。
どのような形であれ、アートにおいては、何を「語らないか」こそが重要であり、且つ難しい。だからこそ、そこに作家性が現れるのだろう。
"Il ne faut pas s'exprimer comme on sent, mais comme on se souvient (感じるようにではなく、思い出すように表現しなければならない)" - Joseph Joubert